Sato's blog >>> 2005 | |
#01 ごあいさつ 2005/4/27 時代に遅れを取りましたが、ようやくホームページを開設する事が出来まし た。開設にあたりご協力くださった方々に、心から御礼申し上げます。 このページでは建築に関することばかりではなく、今までに経験して来た事 や感じている事など、随時更新して行きたいと思っています。興味を持って くださった方は、どうぞまたお立ち寄りください。 #02 ある現場の検査にて 2005/6/2 先日、依頼を受けている現場の検査に出向きました。この建物はツーバイフ ォー工法3階建ての共同住宅で、耐火建築物です。着工以来もう4回も検査 を行っており、建物の規模からすると検査回数は多いと言えます。 この建物の場合は、2回目の検査で内壁の石膏ボードの張り方の間違い、石 膏ボードを留めるビスの長さや本数の不足など多くの点で不備があり、やり 直しがありました。施工者側の現場監督は居ますがこの様子から推測すると この現場は職人のやりたいように施工され、工事が進んでいたようです。 現場の精度とは、たとえ設計図面に何の間違いもなく完璧であったとしても 最終的には、職人がどう施工するかに左右されます。長年の経験から培った 施工技術が、実は間違いであったり手順が違っていたり、あるいは法に反し ていたりする事も少なくありません。そのためには釘1本ビス1本に至るま で、検査を行わなければいけないのです。 この建物は、4回目の検査でやっと本来の耐火建築物になりました。建築は 検査も大事です。 #03 設計者の資質(その@) 2005/6/10 一級建築士と言えば一般的に、医者・弁護士と並び称しても良い(?)くら い難しい国家試験を突破して勝ち取る資格です。この資格を得た者に対して は、専門家としての知識や技術を持っているはずだ、と誰もが思うのも当然 の事です。 一級建築士の試験には、四種の学科からなる一次試験と設計実技の二次試験 があり、いずれも年に一度しか実施されていません。学科試験は建築の歴史 や色彩・法規・物理・化学・施工材料など実に広範囲からの出題であり、実 技試験は、課題とされた建築物の基本設計図を限られた時間内に作成しなけ ればなりません。 資格を得るためにはもちろんこの全てが出来なくてはなりませんが、問題は その点数配分のバランスです。デザインは満点なのに、物理は合格ラインの ギリギリであるとか、建築法規には自信があるけれど、施工材料は初めから 捨て身であるなどなど。 多くの人には得意・不得意があり、資格を持っているからと言って、建築の 全てに明るいと思ってはいけないのです。 医者の場合は、開業する際に医院名の他に診療科目を掲げるのが一般的であ り、受診する側も迷わずに済みます。しかし建築業界、とりわけ設計事務所 の場合には専門分野をあえて限定している所は少なく、事務所名だけでは、 その建築士が何を専門とするのかわかりにくいのが一般的です。 デザインが得意な建築士もいれば、構造力学や計算が得意な建築士もいます。 言い換えると、建築法規が苦手な建築士や現場監理が不得手な建築士もいる という事です。 そういう私自身にもやはり得意分野があり、得意な事は楽しいため、ついつ い力を入れてしまいます。知識のバランスを保とうと努力はしているのです が。(そのAへ続く) #04 設計者の資質(そのA) 2005/6/24 建築士とひと言で言っても、得意・不得意な分野がある事はお話しました。 それは、元々その人自身が持っている資質に加えて、建築業界においてどん な経験を積み重ねてきたかに左右されます。 建築法規に照らしながら平面や立面を計画するのが意匠設計であり、構造計 画や構造計算、構造図を作成するのが構造設計です。大規模な建物や商業建 築の場合には、電気や給排水を計画する設備設計があります。 もちろん、独りで全てを設計できる建築士もいます。しかし、意匠設計だけ あるいは構造設計だけを担当する建築士もいて、この方が一般的です。 住宅の場合には意匠設計と構造設計が係わりますが、時間的な問題、あるい は得手・不得手の問題で、意匠設計をメインで行い、構造設計は他の建築士 に依頼するというような事は、そんなに珍しい事ではありません。 ひとつの建物において、同時に二人の建築士が係わるのだとすると、双方の 得意な知識によって、出来ないと思われていた事が可能になったり、図面を 見る目が増える事で間違いを容易に軌道修正できたり、頼もしい限りです。 けれど、良い事ばかりとは言えないのもまた事実なのです。(そのBへ続く) #05 設計者の資質(そのB) 2005/7/5 住宅の設計において意匠設計と構造設計を分業で行う事は、そう珍しい事で はありません。ひとつの建物の設計が複数の建築士の分業で進行される場合、 その機能がうまく働けば、とても頼もしい事です。しかしその機能がうまく 働かなかった場合には、かえって収集が付かなくなる事もあります。 以前、建築工事途中の住宅の建築主から建物の調査依頼を受けました。建築 主が相談に来られるケースの多くは、打ち合わせた通りのものが出来ていな い、という事が発端となり、それ以降の全てが疑わしく思われ、不安になっ てしまった結果です。この家の場合は、窓の位置を変更する点を打ち合わせ 済みであったのに、現場では元の位置のまま工事が進んでいました。 基本の資料である設計図を確認したところ、平面図・立面図などの意匠図は 打ち合わせ通りの位置に窓が移動されていましたが、肝心の構造図が修正さ れていませんでした。更に不幸なことに、この現場にはこの不整合を事前に 発見する人はいませんでした。 時間の問題、あるいは得手・不得手の問題で意匠設計と構造設計を分業とす るのは、建築士側の勝手です。しかし設計図を発行する段階では、その図面 の責任が請負った建築士にあるという事は、忘れてはならない事です。得手 不得手などの言い訳は、この段階ではもう通用しないのです。 得意なもの不得意なものは、誰にでもあるものです。しかし一級建築士とし て仕事をする以上は、自分の作品は自分の責任において全ての図面にきちん と目を通し、不得意な分野も理解しようと努力するのは当然の事です。 自分にとっては数ある中のひとつの設計、しかし建築主にとっては、一生に 何度も出来るものではない大切な財産です。 #06 最近の裁判事例から 2005/7/21 枠組壁工法・木造2階建ての住宅で、引渡し後の不具合についての話し合い がこじれ、裁判となってしまった事例があります。訴状内容として提起され ている中で、2階建て住宅において特に注意が必要と感じた事例です。 2階にバルコニーへ出入りする開口が設けられている壁があり、1階の壁よ りもセットバックしているため、その壁の直下には床梁を配置し2階の壁を 支えていました。床梁のスパンは4メートルであり、その床梁には屋根・2 階の壁・2階の床の荷重が掛かります。問題となったのはその床梁のサイズ であり、構造計算をすると、施工されているサイズでは耐力が足りないとい う結論が出ました。 この結果を設計者に伝えたところ、『2階建ての建物は構造計算の必要が無 いので検討しなかった』との回答がありました。 ここが注意しなければならない点であり、この設計者も誤った理解をしてい ました。『2階建ての建物は構造計算が不要』と言うのは、『建築確認申請 の設計図書として審査機関への提出は不要』という意味であり、たとえ2階 建てであっても、その安全性の確認は設計者の責務なのです。経験値で安全 だと判断できる部分も大いにありますが、この事例のようなスパンが大きい 部分の構造部材は、明らかに検討が必要であると言えるでしょう。 3階建ての場合、構造計算書は建築確認申請の設計図書として審査機関への 提出が義務付けられています。しかし2階建ての場合には、安全性の確認が いかに成されているかによっては、引き渡し以降、問題となって現れてくる 可能性もあるのです。 #07 公庫仕様書について(その@) 2005/8/5 建築業界において『公庫仕様書』はよく耳にする名称です。正式には『住宅 金融公庫工事共通仕様書』と言い、建設資金として住宅金融公庫の融資を受 ける場合には、この仕様書に則った施工を行わなければなりません。 平成12年に建築基準法の大幅な改正があるまでは、木造住宅に限定すると その構造等についての規則は曖昧なものでした。しかし公庫仕様書では、法 改正以前から、基礎の形状・金物の種類や施工方法・断熱材の種類や厚さな ど、住宅金融公庫としての規則を定めていました。よって公庫仕様書は長き に渡り、建築基準法を補足する役割も持っていたのです。 この仕様書では、施工方法など文章だけでは理解しづらい部分が図解されて おり、一般の建築主にもわかり易いように工夫されています。業界の人間は 当然、熟読しているはずですが(だと良いのですが)、一般のみなさんも、 読んでみると面白いかもしれません。 #08 モルタル塗りの不思議 2005/9/16 サイディングなど外壁材の種類が豊富になり、また、アメリカ調の外観が好 まれた事により、住宅地の街並が多様になっていった時期がありました。 最近ではプロヴァンス調などと言う呼び名、あるいは天然素材を多様する家 など塗り壁の外観を持つ家も増え、街並に落ち着いた雰囲気を出しています。 東京23区のほとんどは、都市計画による防火地域または準防火地域に指定 されています。23区以外の東京・神奈川・千葉・埼玉の主要な市町村のほ ぼ全域では法22条、23条の指定があり、よほど大きな敷地でない以上、 ほとんどの家の外壁には、防火性能が求められます。 法律で定められた防火構造とは、規定された時間内火災に耐えうるかを実験 で検証し国土交通大臣が認めたものを言い、日本国内で生産されている外壁 材のほとんどは、その製品ごとに認定番号を持っています。 しかし一部の輸入品などでは、日本国内における認定番号を持っていないも のもあり、気に入った外壁材であったとしても、防火性能を求められる地域 では使えない場合があるので、注意が必要です。 そしてモルタル塗りの外壁の場合、防火性能を満たす基準はその塗り厚さで あり、公庫仕様書では、一般的な防火性能基準である塗り厚20mmの施工 方法について、3回に分けて塗るよう規定しています。なぜ3回かと言うと 2回塗りでは厚さが12〜15mm程度にしかならないからです。 15mmの塗り厚で防火性能が認められているモルタルもありますが、一般 的に使用されているものでは、更に1回塗り重ねないと基準である20mm に満たない事になります。 また、モルタルを塗る上での下地としてラスというものがありますが、一般 的に使用されているメタルラスが耐用する塗り厚は15mm程度とされてい ます。そのため20mmのモルタルを塗り重ねるには、専用のラスを使用し なければなりません。 時々、防火性能が求められるはずの地域で、モルタルの下地に一般的なラス が使われている現場を目にします。20mmのモルタルをどんな方法で剥離 させずに塗り重ねるのか、いつも不思議に感じています。 #09 公庫仕様書について(そのA) 2005/10/31 建築業界においてよく耳にする公庫仕様書。これについては以前お話した通 りです。ハウスメーカーの工事請負契約書、あるいはカタログ等の説明書き に『住宅金融公庫の仕様を標準とする』という文言が記載されているものを 多く見かけます。平成12年の大規模な法改正まで、建築基準法を補足する 役割を担っていたこの仕様書は、建築業界においては実際、どのような役割 を持っていたのでしょうか。 公庫仕様を採用しながら独自の施工基準も定め、日々研究・改善している躍 進的な会社もあります。また、公庫仕様に則った施工体制を整え、安定した 建物水準を確立している会社もあります。しかし中には、公庫仕様が標準と 告知しながら、肝心なその内容を勉強していない会社もあります。 ある企業からの依頼で、現場監督を対象とした講習会を行ったことがありま す。その中で公庫仕様書の内容についての質問を出してみたところ、驚いた ことに、およそ半分の現場監督は公庫仕様書を読んだ事がありませんでした。 それぞれの現場経験から持ってる知識は豊富であり、質問の答えが一概に間 違っていた、と言う訳ではありません。正しいと思っていた知識が実は間違 いであった、という経験は誰にでもある事ですが、建築に携わる者の間違い は、イコール法令違反である危険性があるのです。 公庫仕様を標準とする会社の工事部門が、それを読んでいない。この事実は きちんと見直す必要があります。公庫仕様書をまるで印籠のようにしか捉え ていない感覚が、まだまだ多く存在しているように感じます。 #10 何もしないことの罪 2005/11/8 あるディベロッパーが建売住宅を販売しました。売買が成立し買主が入居し ましたが、その直後からおよそ8年間、買主とディベロッパーとの間で裁判 が続きました。 この建売住宅は、親会社であるディベロッパーが子会社の建設会社に発注、 子会社がまたその下請けに一括発注した、いわゆる『丸投げ』の物件でした。 請負った工務店は建物の完成・引渡し後に倒産。また、不況のあおりでディ ベロッパーの子会社も解散となり、この建物の建設に係わった人間は、皆ど こかへ行ってしまいました。しかし、売主であるディベロッパーと買主との 間で、裁判は継続されました。 問題となった建物を検証してみると、これが本当にひどい。これ程の建物が よくぞ検査に合格し引き渡されたものだと、とにかく不思議に思いました。 ツーバイフォー工法であるその建物は、外壁や床合板の釘の不足だけでなく 床根太と土台には釘が全く打たれていない状態。また、設備がずれたまま設 置されていたり内壁が歪んでいたり。トイレのドアは勝手に開くし、何ヶ所 かの雨漏りは一向に治まらない、などなど。 ちょっと考えにくい、という程度をはるかに超えた状態でした。 何故このような建物が出来上がってしまったのか。裁判が進行するに従って 見えてきたのは、丸投げの実情でした。子会社の担当者達は下請けの工務店 の仕事に対して何等チェックせず、検査もせず、指示も行わず。まさに文字 通りの丸投げの状態。高い給料をもらい、何もしない担当者達。今は、何処 で何をしているのかわかりません。 組織が大きくなる程、その末端までを把握するのは難しい事です。企業とし ては、社員個人の資質やモラルに頼らざるを得ない事が多いのも事実です。 しかし、何もしなかった担当者はもちろんですが、何もせずとも事業が進ん でしまう状況に甘んじていた会社にも、もっと大きな責任がある事は明らか です。この裁判でも、訴えられたのは売主であるディベロッパーであり、こ のディベロッパーが裁判のために使った費用は、建物を建て替える事が可能 な金額を超えてしまうものとなりました。 |
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